燈火(ネオン)は消えず

原題「燈火闌珊」。本格的にはまった90年代初頭から何度行ったかわからない(単に数えてないだけ)自分にとって初めて降り立った80年代半ばの香港で何より目をうばわれたのはご多分にもれず尖沙咀界隈のネオンの洪水でありました。現在は安全上の理由で撤去が進み9割がた減ってしまったそうで、香港そのものの変化ともあいまって消えゆくものへの感傷をおぼえずにはいられないものがありますが、本作はそんな古き良きネオンをめぐる、ある家族の物語。ネオン職人の夫を亡くし喪失感にうちひしがれる妻が、とっくに閉めたはずの工房で夫の弟子を名乗る青年と出会い、夫の最後の仕事をともに完成させようとするが…。夫婦役を演じた張艾嘉と任達華(82年の「夜驚魂」以来の共演らしい。でも見たのが昔すぎて忘却の彼方)の円熟のコンビぶりにしみじみ。ごく普通かそれよりもうちょっといっぱいいっぱいな生活を送ってきた夫婦の、共にしてきた年月とその小さな生活圏の描写にもしみじみ。全体のトーンは哀愁の色あいながらささやかな希望や喜びも散りばめた演出にはこれが初監督作というアナスタシア曾憲寧の繊細さがうかがわれ、また、家族の誰かを失った者の話という発想がまずあってそこにネオンのモチーフを重ねたというようなことを監督が語るインタビュー記事を読んでああそうかと納得。ネオン文化や往年の香港への郷愁もさりながら、よりミニマルな部分では夫に依存気味だった初老の女性のいわばグリーフケアというか喪失と立ち直りの映画なのだと感じた次第です。

昨年の東京国際映画祭上映時のタイトルは「消えゆく燈火」。日本公開タイトルは表題のとおりで(英題「A Light Never Goes Out」由来と思われ)、一見、字義的には反対。でもニュアンスとしては背中合わせのように思えてどちらのタイトルもアリだなと。。なお、エンドクレジットの最後に香港ファンであればふと胸をつかれる光景がうつし出されるので本編が終わってもすぐ離席されないことを推奨します。

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