西湖畔に生きる

原題「草木人間」(ここでいう人間は世間の意。じんかん)。英語タイトルは「Dwelling by the West Lake」 。先日TIFFにて。龍井茶の産地で知られる杭州市・西湖のほとりの町を舞台に、マルチ商法にはまったシングルマザーと母の変わりように苦悩する息子の物語。山水画のごとき風情をたたえたデビュー作「春江水暖」(19)で一躍注目を集めた俊英・顧暁剛監督の新作は、監督自身が“山水図・第2巻”と位置づけ、三部作かそれ以上になるかは不明ながらシリーズの一環。なのですが、山あいの茶畑を鳥瞰する壮大な景観の美しさに圧倒されるオープニングから一転して現代社会の暗部へ突入し、山水図どころか地獄絵巻が展開されるに及んで、蔣勤勤演じる母・苔花(タイホア)のカルト宗教に洗脳されたも同然の狂乱状態と息子・目蓮(ムーリエン)の苦闘ぶりに正直ちょっとひるんでしまった自分です。でもあとから「目蓮救母」という中国の古い仏教説話が下敷きになっていると知って、あああそういうことだったかと遅ればせながら胸アツ。。おそらく中国の観客なら息子の名前が目蓮というところでぴんとくるのでしょうね。その意味では海外ではちょっと前提のハードルが高いかもしれないけれど、マルチ商法の恐怖をうったえる作品というよりマルチ商法は地獄の1つのあらわれであって、高いところから見れば美しい悠久の眺めでもそこに暮らす人々はそれぞれの苦しみや幸せの中で生きているのだという普遍的なテーマと自分は受けとめました。

以下余談、今回の映画祭は海外からいっぱいゲストが来てくれて、本作も監督はもちろんスター女優の蒋勤勤や超売れっ子の呉磊ほかメインキャストが来日(蒋勤勤の夫・陳建斌も出演してましたが来日はなし、あるいはおしのび?)。残念ながら自分が見たのは3回目の上映回だったのでQ&Aはなく、ナマ呉磊をおがむことができなかったのは痛恨のきわみでありますが、先日アップした「耳をかたむけて」にも出ている呉磊くん、子役時代からのキャリアと実力がアイドル時代劇(さほど演技力いらない系の作品もあることは否めない←失礼)だけでなくこうしたアートフィルムで発揮されている姿を見せてもらえて、勝手に見守るおばさんは嬉しいです。