悪は存在しない

先日試写にて。「ハッピーアワー」「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督の最新作でありヴェネチア国際映画祭銀獅子賞作。自然豊かな高原の町にグランピング場の建設計画が持ち上がり、東京の業者に対して地元住民が不信感を持つところから始まる物語は、まずタイトルが不穏、といっては不謹慎かもしれないけれど逆説的なネーミングというのは映画に限らずしばしばあること。なのでもしや悪についての物語では、とそれはそれで期待した次第なのですが、実際どうなのかはぜひ劇場で体感されたし、というよりそんな何が悪で何が悪でないかを言わんとするようななまやさしい映画ではなかった。傑作でした。ほとんどうちのめされました。自然の美しさと厳しさ、無骨な主人公、あまり笑顔を見せない人々、対照的に戯画的なまでにペラい都会のコンサル、あらゆる印象的なショットの中でもとくに忘れがたい2度にわたる長回しの薪割りのシーン、そして映像と呼応する音楽の素晴らしさ。プレスによれば、そもそもは「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当した音楽家石橋英子氏がライブパフォーマンス用のサイレント映像を橋口監督に依頼したところから始まり、最終的にその作品「GIFT」と共に結実したのが劇映画としての本作。映像と音楽における才能と才能の化学反応、対等な関係性のたまものなのでした。

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