黒衣人

中文原題「王西麟」。英語タイトルが「Man in Black」。一昨日FILMEXにて。王兵監督作品はニッポンで紹介されたものはたぶん全部見ていてその都度作品のとてつもない強度はもちろん、このような監督が出現し、かつ成功し、コンスタントに新作を発表している(しかも今回は審査員として来日も!)こと自体に圧倒されずにいられないんですが、本作もまたよくぞ撮ったり!とただただ脱帽。例によって前知識なく見たもので、どこか廃墟感をただよわす劇場に全裸の老人があらわれて異形のパフォーマンスを展開するさまをカメラが全方位的に寄ったり引いたりしながらまとわりつくように映し出していく前半部分では彼が何者なのかをはかりかねながら時に蔡明亮の映画を思い浮かべたりしていたのが、その老人・王西麟が劇場をふるわすほどの声量でとうとうと“わが人生”を語り出すに及んで、まごうことなき王兵作品の扉が音を立てて大きくあいた心持ちに。かつていくつもの交響曲を手がけた現代音楽家が反右派闘争の犠牲となった運命の過酷さとそれに抵抗するに足る精神力と憤怒と信念とがあいまって、正気も狂気も超えた地平に到達した一人の男の質実ともにむきだしの生命力と存在感に驚嘆そして感動。