凱里ブルース

こと原題「路辺野餐」。先日試写にて。年老いた女医が営む診療所で働く元ヤクザの男が、仲の悪い異父弟に捨てられたも同然の甥を探しに遠くの村へ行く途中、ある別の村でバイクタクシーの青年や青年が恋心を抱く女と出会い、その友人である理髪店の女に自分の過去を語り、歌を歌い、それからまた青年のバイクに乗って旅を続ける。。と書いてもほとんどストーリーの説明になってないですが、過去と現在が同じ空間に存在するような村のたたずまいと永久運動的ノスタルジーに身を任せていつまでもひたっていたい切なくも美しい映像詩ともいうべき作品。この映画は自分が畢贛のビの字も知らなかった2015年の中国インディペンデント映画祭で観て驚きかつ感銘を受けたのが最初で、さすがに一般公開は難しかろうと勝手に思ってましたが、これで世界から注目された監督がインディーズから一気にアート映画の騎手となり有名スターを起用して撮りあげた長編2作目「ロング・デイズ・ジャーニー この夜の涯てへ(原題:地球最后的夜晩)」がカンヌをはじめ国際映画祭で大きな話題を呼んだことから「ロング・デイズ〜」と共に表題作も劇場公開のはこびとなったのは実に喜ばしいことで、久しぶりに再見しあらためて大傑作であると認識した次第です。

どちらの作品も驚異的なロングショット(「凱里〜」は約40分、「ロング〜」は約60分)が一番の目玉というか特徴といっていいと思いますが、それはいずれも実験的であると共に心象風景あるいは長い夢としての蓋然性を帯び、長編デビュー作と2作目で同じことをしているといえば同じことをしているのだけどセルフリメイクではなくいい意味でロングショットのためのロングショットとしてカメラが登場人物と一緒に動き出す瞬間の開放感や浮遊感や動き続けることへの一種の固執や美学的なものの得難い果実であると思うので、その意味でぜひ2本ともこの機会にご覧になることをおすすめしたいです。

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