細い目

昨日、試写にて。久しぶりに再見し、うすうす覚悟はしていたけどもう冒頭の許冠傑が歌う「世事如棋」が流れてきただけで涙目になりかけ、その後も事あるごとに笑えるところでさえ涙目というナントカの犬状態で故ヤスミン・アハマド監督の不朽の名作の滋味をしみじみと深々と味わいました。

もう15年前の作品なのですね。思うに自分のアジア映画好きはこの映画との出会いが決め手になったのかもと、そんな気がいたします。そもそもの発端は香港映画にハマってそこから台湾映画や中国映画に沼が広がっていったんですが、それは中国語字幕(香港映画の場合は英語字幕も)のおかげというのが大きくて、そこからもっと先、中国語圏ではない地域の作品は自分の言語的・文化的・民族的な部分での無知が壁になってすんなりとはつながっていかなかったのが、東京国際映画祭などで紹介されたアジアの秀作群が大いに世界を広げてくれたのは間違いのないところ。中でも「細い目」はサムホイの歌が使われているわヒロインは金城武のファンだわ彼女が恋に落ちるのが海賊版VCDを売る男の子だわジョン・ウーの話題が出まくりだわヒロインのママと愉快なメイドさんは「上海灘」の主題歌をハモるわで、えっそうなのマレーシアって!?(一般的にはそんなこたぁないんだけど、というのはもちろん当時は知らず)という驚きや親しみから一気にぐわーっときて、そこからヤスミン・アハマドという不世出の才能を知り、以下長くなるので略、、という流れで今日のアジア映画好きに至っているのだろうなと。そしてこの映画を初見の時にはたぶん単純に主人公たちのキュートさ、いとおしさ、物語の面白さ、美しさ、切なさに惹かれたのが、今では細かい部分の背景理解も深まって、いろんな映画を通じていろんな勉強させてもらってきたなあと、何にどう感謝すればいいのかわからないけど感謝。

ちなみに、クレジットを見るとキャストの最初に出てくるのはジェイソン役のン・チューセンで、オーキッドのシャリファ・アマニももちろん同列で主人公ですがタイトル(細い目=中国人のこと)も示すようにこの物語はまず何よりジェイソンの物語。そのジェイソン役を演じたン・チューセン君(と君づけせずにはいられない近所のおばさん目線な私)は本職は俳優でなく、この映画にしか出ていない(厳密にはオーキッド三部作のもう2つにもカメオ的に参加)という一期一会の存在感をスクリーンに焼き付けてどこへともなく去ってしまった感がありますが、なんと2015年のヤスミン・アハマド特集上映のおりに公式来日。そのときサインをもらうチャンスがあって初めて漢字名が分かりました。ちょっとくずしてあるけど多分「黄子鋒」です(鋒かどうかは微妙に自信なし)。ン=呉だと思い込んでましたが黄さんだった。リアルジェイソン君、ものしずかな感じのハンサムガイでした。

 公式サイトはこちら