PERFECT DAYS

劇場にて。先のカンヌ映画祭役所広司が男優賞に輝いたヴィム・ヴェンダース監督作品。この映画に限らず自分はあまり予習したくない派なので今回も日々淡々とトイレ掃除をする男の話というくらいしか基本情報を持たずに見て、主人公の一日一日を追体験しながらその清貧ながらも満ち足りてみえる生活習慣やそこに至るまでの人生や彼も含めて登場人物たちの映画では説明されていないいろんな背景に想像をめぐらせつつ、誤解をおそれずにいえば一種ファンタジーのような(リアルと背中合わせの、というか)感覚にとらわれていました。というのも1つには主人公が掃除に向かう先は東京公衆便所図鑑というのが作られたなら必ず載るだろうユニークでアートなものが中心で、この映画を海外の(あるいは都民でない)人が見たら東京のトイレはいいなと思うかもしれないところが個人的にはファンタジーに思えて。ただし別にネガティブな感覚ではなく、どこのトイレも、とまでは正直思わないけれどごくありふれた、なんならうすよごれて見える街並みもゆっくりながめると不思議に楽しいもので(コロナでロックダウン状態に近かった時期は毎日1〜2時間徒歩圏内を散歩して体感したし、海外に行くとあらゆる普通の場所が面白くて飽きないし)、その意味でさすが海外の巨匠がトーキョーを撮るとかくも魅力的な映像詩がうかびあがるのだなという感銘に近い、むしろ心地よさ。それは主人公が車内でかける洋楽や古本屋で買い求める文庫本のセレクションにも通じるものがあり、でもそうした隠遁した知識人のような達観性だとか孤独の究極の理想型が描かれているともまた思わなくて、人が日々生きていく中で変化を求めるか求めざるか気づくか気づかざるかにかかわらず何ごとも変化するということが1つの真理として自然に腑に落ちた心持ちです。

公式サイトはこちら