苦い銭

FILMeXにて鑑賞。王兵監督による先のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門脚本賞受賞作…ドキュメンタリーで脚本賞というのもちょっと不思議な気もしますが(編集賞なら分かる)それはともあれ、浙江省湖州の縫製工場を中心に中国各地から出稼ぎに来た人々の貧しい生活に向けられた王兵のカメラはいつもながらきわめて被写体に接近し、ねばり強く(というより吸い寄せられたまま離れられない感じ)どこまでも追っていき、なのに誰もカメラの存在を気にしていないかにみえるほどニュートラルな距離感を保っていることには舌を巻くばかり。とはいえたまに彼らがカメラに向かって手まねきをしたり、「もう寝る。明日撮ったら」と話しかけたり、確か一か所だけだったと思うけれどカメラのこちら側と被写体との会話も使われており、それがちょっとした息抜きに。ブラックすぎる環境でただただ働く人々は全部が全部悲惨そうなわけでもなく中にはタフそうな女性もいたりするのですが、とりわけ見ているのも聞いているのもツラくなったのは、パワハラ夫がその妻に怒鳴ったり暴力をふるったりする場面。まったくかみあわない売り言葉と買い言葉の無限のループのあまりのむなしさに、いきなり飛躍するけどこういう人たちがたとえばアメリカだったらトランプを熱烈支持したりするのかなと思ったり…。そんな様子も王兵のカメラは延々ととらえ続け、あとからもう一度その2人が出てくると今度はそのへんの普通の夫婦という感じでなんだか苦笑してしまう、そうした編集もすこぶる印象的でした。