馬皮

10月7日の拙ブログでお知らせした徐辛監督の旧作ドキュメンタリー。監督の故郷である江蘇省の小さな村で、その地域だけに伝わっているという一種の奇祭の様子を、準備段階から当日の賑わい、祭りの後の虚脱感のようなものまでを手持ちカメラで捉えた実に貴重な映像で、中でも両頰を極細の剣で貫き、また別の大ぶりな剣を手に何時間も駆けずりまわる馬皮(地元でそう呼ばれるタンキー。名称の由来は不明だとか)の親子の挙動や表情は圧巻。ぐいぐいと頰に剣を刺し込んでいく映像には最初ギョッとしましたがすごい集中力というかトランス状態というかもはや何度も刺しすぎて頰にピアスホールみたいなのができているのか…?。台湾に受け継がれたタンキーのことは漠然と知っていたものの中国にも十数年前にまだ現役のタンキーがいたとはこれも驚きだったし、会話の中で何度も茅山という言葉が出てきて、香港脳な自分としては茅山とくれば道士、そしてキョンシーを思い出さずにはいられないわけですが、道教の伝統が色濃く残る地域であることも実感したり、とにかくめちゃくちゃ面白かった。徐辛監督作は同じく旧作ドキュメンタリーの「房山教堂」に続き先日は山形で「長江の眺め」を見て、表題作で3本目の鑑賞。こじんまりとした上映会でしたが、数時間後には帰国手続きをしなければならないという監督自身も来場し、質疑応答も盛り上がってお得感満載でした。最新作の「長江の眺め」はこれら旧作に比べるとはるかに作り込まれ、洗練された、さすが国際映画祭出品作という風格で、自分としてはカメラの向こうの光景や習俗への興味や驚きという意味ではごくパーソナルな観点から撮られた荒削りともいえる旧作群の方にガツンとやられた感ありですが今後も徐辛監督作品はチャンスがあったらぜひ見ていきたいです。