ノマドランド

劇場にて。オスカー大本命の呼び声も高い、「ミナリ」ともども公開を心待ちにしていた話題作。長年住み慣れた町がリーマンショックで経済破綻して住めなくなり、夫も病死し、現代の遊牧民ノマド)としてオンボロの改造キャンピングカーで各地を回り短期労働で食いつなぎながら生きていく六十代の女性(フランシス・マクドーマント)の物語。と同時にそれぞれの事情でノマドとなり、孤独に慣れ、誰にも束縛されない自由を享受しつつ時にノマド同士で付かず離れずの交流もしながら車で放浪生活を送る人たち一人一人の物語であり、一生ノマドでい続けるかどうかもまた人それぞれ。彼らにどんな事情があってかは想像の域を出ないながら、なんらかの傷心をかかえ、それ以上傷つきたくなくて他人に干渉せず他人からも干渉されない生き方を選んだ結果としての、そして主人公についていえばある意味で悲嘆のプロセスであって、期限のない時間と果てしのない大自然(さらにいえばギリギリのところまで自分を追い込むこと)がこれからも生きていくために必要だったのだと思えて、胸にしみました。数少ないプロの俳優を除けば登場するノマドたちはみな実際にその暮らしをしている人々だそうで、その演技を超えた自然さはイコールその世界に完全にとけこんだフランシス・マクドーマントの自然さでもあって、合わせ鏡のように映画を成立させたクロエ・ジャオ監督の(前作をまだ観ていないのではやく観ねば)才能に刮目。

公式サイトはこちら