シャドウプレイ

こと原題「風中有朵雨做的雲」。先日試写にて。19年の第20回東京フィルメックスで招待上映のさいに都合がつかず見のがしていた婁燁監督作品が来年1月に【完全版】と銘うって公開のはこびとなり、遅ればせながらでありつつ完全版という意味では一足お先に見ることができてありがたいことです。映画は、1989年に出会った男女3人が改革開放による高度成長期に事業で成功しバブルに浮かれるその水面下で蓄積してきた愛憎を社会の変遷と重ねて描く中で、時期の異なる2件の殺人事件が点と点から線へとつながっていく犯罪ミステリー。婁燁作品にはめずらしい(とはいえ手持ちカメラによる揺れる映像やニュアンスと陰影の深い絵作りはどこまでも婁燁的。女性たちがしばしば「ふたりの人魚」の周迅の金髪のかつらを思い出させるピンクのかつらを無造作にかぶって退廃的ムードをいやましにするのも何やら思わせぶりで気になる…)クライム・アクションの、アート映画でありジャンル映画でもある力ワザが光る1本で、本土を中心に香港や台湾もからんでくる物語と同様、キャストも井柏然、秦昊、宋佳、張頌文、馬思純ら中国の実力派にくわえ陳妍希、そしてエディソン陳冠希と異色の顔合わせも印象的。

あとからプレス等読むと相当に紆余曲折のあった作品で、17年に完成後、2年にわたり当局からたびたび修正を指示され、19年にようやく本国で公開された時の上映時間は124分。フィルメックスで上映されたのはそのバージョンで、今回の劇場公開では検閲でカットされた部分を復活させての129分。自分は初見なので過去上映時のものと比べられませんが5分といえどもそこに監督の忍耐や思い入れ、もしかすると一抹の妥協も内包した完全版と思うと感慨深いものがあり、たとえばフィルメックスのときはエディソンの出番がほぼほぼ切られていたらしく、まあ当局的には(観客的にもか?)ダメ出し案件だったのだろうけれどストーリーにしっかりからんでくるキャラなので今回復活できてよかったねと素直に思いました。

公式ウェブサイトがまだ(?)なのか今ちょっと見つからないのですが公式ツイッターこちら。本作の脚本家の一人であり婁燁の妻である馬英力が監督したメイキングフィルム「夢の裏側」も同時公開(こちらも未見なので、見なくては!)。