夕霧花園

劇場にて。80年代のマレーシアで、エリート裁判官ユンリンは戦後交流のあった日本人男性・中村がスパイだった疑いが持ち上がったことから連邦裁判所判事への昇進があやうくなり、中村はスパイではなかったと証明するため50年代に中村と出会ったキャメロン高原を久しぶりに訪れる。戦中から80年代まで3つの時代を行き来しながらユンリンと中村の関係とスパイ疑惑にまつわる謎をひもといていく本作は、マレーシアの作家タン・トゥアンエンの小説を映画化した、台湾の林書宇監督によるマレーシア映画で、「海外の作家が想像する日本」的な不思議な味わいをたたえたミステリアスなヒューマンドラマ。人によっては中村のキャラに入れ込めないがゆえに映画自体も今ひとつなんだかなと思うかもしれないと思いましたが、かくいう自分は予想以上に(失礼)面白くてひきこまれて、原作は未読ながらおそらく原作が相当胸をうつ物語なのではないかと察する次第です。マレーシアの観客がどう感じたか、台湾の観客がどう感じたかも興味のあるところ。

中年のユンリンを張艾嘉、若いころのユンリンを張艾嘉の愛弟子・李心傑が演じているダブルキャストは大正解。この二人の好演が阿部寛演じる中村のキャラの「想像の産物」っぽさを補ってあまりある、にもかかわらず阿部寛の存在感が結果的に一人勝ちというパワーバランスの妙もまたこの映画の面白さでありました(つまり阿部寛はえらい)。余談ですが、李心傑はどの公開作からアンジェリカ・リーあらためリー・シンジエ表記になったのかな?

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