読まれなかった小説

劇場にて。公開が始まってひと月ほど経過してようやくの鑑賞。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の作品は「昔々、アナトリアで」と「雪の轍」くらいしか観てないのですがどちらも印象的で、とりわけ「昔々〜」は忘れがたい名作の1つ。本作もまたしみじみと切なく美しく深遠な文芸作品でした。作家志望の青年と、その父で競馬にハマり家族から相手にされなくなった教師の関係性を軸とする人間ドラマは、喋っていないと死ぬのかと思うくらい言葉の応酬で埋め尽くされ、あまりの会話量に時に辟易しながらもその中にさりげなく至言がまぎれこんでいる気がして聞き耳をたてずにはいられず、それぞれプライドや自己愛や逆に自己嫌悪をこじらせて家庭や社会の中で孤立していく父と息子の合わせ鏡のような姿が痛ましく不憫でヘビーなのだけれどそれゆえラストに示される1つの到達点にハッとして胸ふさがれるものがありました。

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